ニッポンのトライアル情報専門誌「自然山通信」の記者・西巻さんによる2010世界選手権トライアル日本GPレポートです。今年から適用されているスタート順変更の新ルールが及ぼした影響などについて書いていただいています。読み応えあり。



世界選手権トライアルが日本で開催されるようになって、今年で11年になる。2002年に、一度だけ9月の最終戦として開催されたことがあったけど、それ以外の年は毎年6月に開催されて現在に至っている。

6月といえば梅雨の季節。年に1度だけ日本にやってくるトライアル関係者は、日本は雨が多い国だと思っているにちがいないけど、日本人からすれば、トライアルライダーは好き好んで雨の時期にやってくるんですね。ツインリンクもてぎで開催するビッグイベントには、雨が降ると中止にならざるを得ないものもあるから、雨が降ってもなんのそののトライアルは、梅雨の時期にだって嬉々として開催できる、めったにないモータースポーツなのかもしれないっす。

今シーズン、日本大会までにスペイン大会とポルトガル大会が開催された。スペインは1日だけ、ポルトガルは日本と同じように2日間。これ、日本が第3戦なのか、それとも第4戦と第5戦なのか、ときどき混乱することがある。藤波貴久のfujigas.netのレポートを見ると、第4戦と第5戦となっている。でもツインリンクもてぎのホームページやFIMのトライアルサイトを見ると、日本大会は第3戦だ。正しくは日本大会は第3戦なのだけど、しかし試合を戦う選手にして見れば、第1戦は試合がひとつで第2戦は試合が二つというのではスケジュールが混乱するから、試合ひとつずつ1戦として数えたいということらしい。かつては、問答無用で全大会が2日制だったんで、この点は混乱なかったんだけどね。

つまりは、FIMのトライアルシステムというのは、ルールも含めていろいろ変遷があって、きっとこれが決まり、なんて結論は出ないんじゃないかと思う。そして今年も、日本人が初めてお目にかかる試合のシステムがいくつかあった。見物する側にとって、一番大問題なのは、やっぱりスタート順だ。これまでトライアルといえば、朝の早いうちに成績のよくない者から順にスタートしていき、途中でクラスがあがって、最後に世界チャンピオン級がぞろぞろ現れる流れになっていた。それが今年から、前回大会で成績のいい者から先にスタートすることになった。

こういうのはルールだから、そうと決まればいいも悪いもない。ライダーみんな、思うところいろいろだけど(けっこう不満らしい)、とりあえず順番を守っておとなしくスタートしていく。トライアルの特徴は、前をいくライダーの走りをじっくり観察できることだ。うまくいくのも失敗するのも、自分の走りの参考にできる。その点だけをいえば、あとからスタートしたほうが圧倒的に有利だ。実際には天候が変わったり、みんなが走って地面のコンディションがぐそぐそになったりするんで一概には言えないけど、一般論としてあとからスタートするほうが有利ってことになっている。つまり今年からのルールは、前回の大会で成績が良かった者が不利になるルールってわけだ。

上手なライダーがあとからスタートするこれまでのシステムでは、ルーキーが先輩を破ろうと思うと、よっぽど実力差がないと苦しかった。ルーキーのスタート順は、先輩たちより早いわけだからね。ところが今年からのシステムだと、ルーキーは先輩たちの走りを観察できる。偉大な先輩たちから走り方を盗んで、自分の成績を上げることができる。強いライダーをのさばらせまいとするFIMの意志が反映されたルールだ。

で、前回のポルトガル大会では誰が勝ったかというと、藤波貴久だった。2008年アメリカ大会以来の勝利。おめでとう、バンザイと喜んでいたが、その結果、もてぎの土曜日には藤波がトップでスタートしていくことになった。ポルトガルとかスペインは、カラカラに乾いた岩のセクションが多い(今年はスペインは海辺のセクションだった。乾いてないけど、逆に乾くことがないから、それはそれでわかりやすい)。日本は誰も走ったことがない泥の斜面を上がったりする。トップバッターの使役は、ことのほか大きい。

ポルトガルで藤波が勝つと、ライバルが藤波のところにおめでとうをいいにやってきたわけだけど、このとき、必ず「もてぎでは一番スタートだね」と念を押していったという。たいへんだねぇ、がんばってね、という意味合いだったかもしれないし、優勝して大喜びしてるのも今のうちよ、という意地悪も含まれていたかもしれない。たぶん両方だと思うけど、もてぎの一番スタートが他の大会に増してきついことになるのは、藤波のみならず、みなさんご承知だったのだ。

そして土曜日は、みんなのこういう心配が、そのまま藤波のみにふりかかった。試合前の藤波は「一番スタートが楽ではないのは確かだけど、前回優勝の勢いをもって、苦境をのりきってよい結果につなげたい」と言っていた。でも、やっぱりむずかしかった。第3セクション、第4セクションで、藤波は5点になった。第4は、ファハルドが力技でマシンを持ち上げて3点になった以外、全員が5点だったからいたしかたなしの感じもあったけど、第3セクションは、藤波の失敗を見てみんながより確実に上がれる方法を模索し始めた。結局、1回足をついて確実に上がるアクションをとるライダーが多かった。これなど、目に見える形でトップスタートがハンディとなったいい例だ。

もちろん、5点にならずともハンディはある。日曜日など、藤波が気合いを入れて1点を勝ち取り雄叫びをあげた第9セクションも、その後トライした小川友幸はこともなげに1点で通過、2ラップ目にはクリーンまでしてみせていた。藤波のトライしたタイミングでは、1点は最善の結果だったのだが、小川の頃になると「ふつうに1点」のセクションになっていたのだという。スタート順、あなどりがたし、である。

それでも土曜日の藤波は、最終セクションまで2位を守っていた。ガスガスのアダム・ラガは、なぜかもてぎというと調子が悪い。今回も、1ラップ目は6位でしかなかった。でも2ラップ目のラガは、がんばったのだ。土曜日のもてぎは、朝から天気が不安定だった。雨といってしまえば雨なんだけど、ただの雨じゃない、降ったり止んだりの日中から、夕方には雷までなり始めた。夕立だから一瞬の雨のはずだが、持ち時間が決まっているから、のんびり雨が上がるのを持っているわけにはいかない。ラガが、少し急いで、藤波を抜いて、トップでゴール。藤波が最終セクションをトライしているとき、ちょうど雨が降り始めた。かなりの降りようだ。

この雨の中、藤波は5点になった。5点では表彰台には上がれない状況というのはわかっていたから、これは痛恨の5点になった。聞けば、雨のせいというより、わずかにずれてもう一本、あがりやすいラインがあるのを、気がつかないままのトライだったという。もしかしたら、これもトップスタートの罠、だったのかもしれない。結果的には、ラガと藤波は同点、クリーン数もいっしょで1点の数の差で勝負がついたのだけど、惜しかろうがなんだろうが、負けは負けだ。

藤波とラガのトライの後、雷が激しくなってきたのでここで競技は中断となった。トライアルは雨が降っても雪が降っても中止にならないけど、唯一、雷で中断する。雨なんか濡れりゃいいし、雪だってグリップが悪いのなんとかすればいいんだけど、雷は打たれちゃったら死んじゃうからね。ちょうどボウがトライするところでの中断だったから、ボウ本人は不満そう。それに実は、安全な屋根の下に非難してちょうだいと言われても、大半のひとは濡れたまんま競技の再開を待っていたから、安全性的には、中断の効果はあんまりなかったかもしれない。

雨が止んで競技が再開して、トニー・ボウが有終の美。今回は3番手スタートで楽だったというボウは、今シーズン3勝目。2位には、開幕戦の表彰台以来、ジェロニ・ファハルドが入った。



明けて日曜日、今度はボウが一番スタート。2日目とはいえ、やっぱりトップスタートはつらいらしい。ボウが最初に失敗をしたのは、第8セクションだった。ここまでたった1点で回ってきたボウが、これでペースを乱してしまった。続く第9セクションでも5点、10で3点、11でまた5点。ボウにとっては悪夢のような中盤のセクション群となった。

このセクション群、もちろん簡単じゃない。というより、とってもむずかしい。だから5点になってもちっともおかしくないんだけど、あのボウが、しかも4つ続けてクリーン出せずにもがくというのは、ちょっとふつうじゃない。4つのセクションだけで、ボウは18点を失った。ちなみに、この4セクションについて、ライバルの減点を見てみると、ラガが5点、ファハルドが13点、藤波が8点、カベスタニーが13点、ダビルが12点、黒山14点といった具合だ。

でも、ここまで珍しいけどまだよくあることで、この日のボウがふつうじゃなかったのは、この失点を引きずって、そのまま調子を上げられないまま2ラップを走っちゃったことだった。どうしちゃったの? という問いに「スタート順だ」とボウは答えている。まったくスタート順というのは、勝敗をこれほど大きく左右するもののようなのだ。

快調だったのはラガだった。2ラップ目終盤まで、5点がひとつもないというのはびっくりの好成績だ。そのかわり細かい減点はちょっと大目だったけど、クリーンを狙って5点になるよりは、1点や2点でまとめておいたほうがずっといい。終盤、ラガは岩盤の12セクション、13セクションで連続5点となった。連続5点はボウがおかした序盤の失敗と々だが、すでにラガは充分なリードを築いていて、この連続5点で動揺することなど、なにもなかった。この失敗で3点差に迫られたラガだったけど、それでも最終セクションをきっちりクリーンして、セクションアウトと同時におたけび。2年連続でチャンピオンになっているというのに、ラガが日本で勝利したのはこれでたったの2度目なのだから、喜びもひとしおってところだ。

ボウは、2ラップ目はよく我慢をして追い上げたけど、序盤の18点は痛かった。ここであとひとつ5点がなくてクリーンだったら優勝だったわけで、トライアルのむずかしさが現れている。ただしボウ本人は、これはスタート順の結果だから、今回は勝てなくて当然。2位は充分以上の好結果と、自分の成績に納得はしている。納得できないのは藤波だった。日曜日は4番手スタートだから、それなりに情報は手に入る。しかし藤波の表情は晴れなかった。1ラップ目の32点はといえば、ファハルド、カベスタニーについで、5位でしかなかった。幸い、カベスタニーは2ラップ目に崩れてくれたものの、ファハルドはしぶとかった。ファハルドと藤波の点差は1点。土曜日の同点に続き、残念な4位だった。



ところで、スタート順が逆順になったことで、日本勢が世界のトップグループとからんで走るというシーンは見られたかというと、これも残念、そういうシーンはあまりなかった。小川友幸に、トップグループのペースについて聞くと「あいつら早すぎ。ありえへん」とあきれちゃってる感じ。ついていくだけなら、自分のトライをそこそこに先を急げばついていけるはずだけど、それなら出場しないで見物していたほうがいいって話になってしまう。スタート順が逆なだけではなく、決勝日にはセクションの中に入ることができなくなっていたから、長く下見をしても、セクションのコンディションがよくなることはない(つまり今までは、セクションを歩いて下見しているうちに、セクションのコンディションがよくなっていたということでもある。歩くだけでセクションのコンディションが変わるというのがどういうことかは、ここでは口を濁しておく)。ならば長居は無用ということで、トップライダーはさっさと先を急いでセクショントライをすることになった。あとからスタートする日本勢がちょっと急いだところで、間に合うわけもなかったのでした。

ただ、先に走っているのが世界のトップライダーだから、直接走っているのが見られなくても、その走り方や点数があとから走る者の参考になった可能性はある。いつもおんなじ選手が勝ってばかりじゃつまらないという点では、このルールはおもしろいものになった。一方、純粋にお客さん側としては、最後に真打ち登場みたいな緊張感とか、下見中にライダーがラインをさぐることで、どんな走りをするのかを想像できたりという楽しみがなくなっちゃったのはちょっと残念だった。

トライアルは、他のモータースポーツに比べても、ルールによって競技の性格が変化する要因が大きい。過去1997には、足ついてバックしてもいいし、なにやってもかまわないみたいなルールが運用されたこともあった。岩を登り損ねたら、そのまま足をついてバックしてきてもう一度やり直すのだから、トライアルらしい潔さは皆無のすごいルールだったけど、ルールによって競技の根幹が変わる可能性を持っているトライアルは、まだまだこれからが楽しみ、とも言える。

日本勢は、土曜日に黒山健一が5位に入った。ベータのワークスライダーとして参戦していた時代と変わらない成績を残したという点では大拍手。もっとも、ベータワークス時代は成績を残さなきゃいけないというプレッシャーもあった。今、黒山は全日本でそういう戦いをしているわけだけど、世界選手権はその点うんとお気楽だ。その気楽さが、この成績となって出てきたといえる。でもまぁ、へたすると藤波をおびやかす勢いだったのは、さすが。

小川友幸が8位と9位になったのは、一応の成果だけど、こんなところかなぁという印象。本人もこの成績には納得してないから、こんなもの、というところだったんでしょう。野崎史高はぜんぜんだめだったと本人の弁。試合に対する執着心がないというか、セクションに対する勢いがないというか、もちろん本人はそんな気持ちは毛頭なくて、結果的にそう見えるような走りになってしまっている。練習での調子は絶好調というから、不振の原因を付かむのはむずかしいのである。黒山とちがって、これは全日本でも世界選手権でもおなじく出てしまっている。渋谷勲は、期待している人は多かったと思うけど、全日本近畿大会で手をケガしているから、今回はちょっと本領発揮にはほど遠かった。それでもこのあたりの選手は、みんなきっちり世界選手権ポイントを獲得しているから、立派。海外遠征選手にすれば、日本は遠くまで出かけていったはいいが、強い選手がいっぱいいて、もしかするとポイントを逃すかもしれないという危機感がある。そして、そのとおり、今回2日間とも無得点になってしまったのが、ダニエル・オリベラスだった。あー、ほんとにお気の毒だけど、日本人選手ががんばった結果だから、同情するより日本人選手に拍手を送りたい。

今回の大収穫としては、柴田暁が土曜日に11位に入ったことだ。11位というと、まだまだ地味な成績に見えるかもしれないけど、世界選手権ではポイント獲得がまず一大事。柴田はこれが世界選手権初挑戦(去年まではジュニアクラスに出ていた)ことを考えると、大金星だ。本人もびっくりの好成績で、とにかくあたっていったらこういう結果が出たというこのらしい。日曜日には同じようにいかないだろうなぁと、本人も周囲も語っていたけど、結果は15位。当初16位と発表されて、オリベラスにイエローカードが出ていたのが加算されて順位がひっくり返った結果だけど、理由はともかく、2日カントもポイントを獲得した事実は、ルーキー柴田には大きな意味を持ってくるにちがいない。



ジュニアクラスやルーキークラスでは、将来的に登場する若手を暖かい目で見守ると、楽しい観戦ができる。ジュニアのジャック・シェパードやアルフレッド・ゴメスらは、きっと近い将来世界選手権で活躍を始める選手に成長してくるはず。ユースのポル・タレスは、なんせおじさんが7回の世界チャンピオンのジョルディ・タレスだから、将来も約束されたようなもんだ。今回は1勝1敗。まだまだ若いところを見せちゃったけれど。このクラスの日本勢は、ジュニアでは野本佳章、ユースでは山本直樹が日本勢のトップになった。でも、まだまだトップには遠い感じ。年に1回、日本で戦うだけじゃなくて、やっぱりヨーロッパに出ていかないと、トライアルは仲間に入れてもらえないって感じなんだね。

そういう意味で、トライアルの仲間入りをしている日本人は、まだまだ少ない。現役の仲間は藤波ただ一人で、黒山、小川友幸、野崎、渋谷、小川毅士らは、昔仲間だった同窓会感覚で仲間に入っている。結果として、仲間に入らなければポイントもとらせてもらえないということだ。トライアル。世界選手権といいながら、まだまだヨーロッパ主体のスポーツなんだなぁと、あらためて思う日本GPあとの梅雨の日々。

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